2008年7月28日

INAXの建築家フォーラム 石上純也講演会 3

「ミラノサローネ LEXSUS L-finesse 会場構成」は、
展示空間を霧で満たすという大胆不敵なアプローチで、
距離感や風景を一転させています。
これによって人の動作や佇まいも緩やかで静かなものに変わります。
雰囲気といわれるようなものをワンアイデアで幻想的なものに一転させ、
展示会場であるという特殊性を具現化しているように思えます。


「四角いふうせん」(2007)は、
展示、空間操作そして満たすという発想は、
ミラノサローネの霧に通じるものを感じます。
巨大なアルミの風船を空間に満たして、その浮遊感と素材感によって、
誰も感じたことの無いような不思議な感覚を産出しています。
展示に対する非常に建築家らしいアプローチのように感じました。


「yohji yamamoto New York Gansevoort street store」(2008)は、
建築的な分節を率直に行った作品です。
Y字路の先端に建つ部分をカットアウトしているのですが、
レンガの租積造であることを利用して、これを粒子のよう扱い、
こつこつと積み直していく点に優れた着想が見受けられます。
歴史性や地域性といった都市的な難題に対しする
氏の姿勢が垣間見えたような気がします。


その他、未竣工の住宅プロジェクトが数件あります。
多くの建築家が重要視しながらもなかなか踏み込めずにいる、
自然と建築の閾や間合いを一気に縮めるようなものばかりです。
竣工せずとも建築界にとって一つの方向性を与えるでしょう。

今回の講演会によって、氏の考えていることがより明確に浮き彫りになり、
数年後、数十年後の大建築家の息吹を確かに感じることができました。
これは非常に貴重な体験であろうと思います。

2008年7月22日

INAXの建築家フォーラム 石上純也講演会 2

「レストランのためのテーブル」(2003)は、
表題の通りにレストランを幾つかの占有感のある場に分節する為に、
大きく、存在感の無いテーブルとその上のランドスケープを提案しています。
閾を作るためには、建築本体としては何らかの壁面を造るのが一般的ですが、
ここではテーブルのスケールとその上の植栽によって、
場に固有性を持たせています。
また、装飾性の薄い空間にあるランドスケープはアイキャッチのように機能し、
人の視線やふるまいを緩やかにコントロールする役目も担っているでしょう。


キリンアートプロジェクト2005「table」(2005)は、
デザインプロセスとしては、それを発展させたものと考えられます。
ここでは「展示」という特性に着目し、使われ方が限定されることから、
積荷加重を定点に定めた上で構造解析を行って、
さらに極端な薄さと大きさを獲得しています。
公演では、おだやかに波打つテーブルのムービーを見ることが出来ました。
この頃から、オブジェクト相互の関係性やプロジェクトの特殊性について
執拗に追求する氏の方向性が定まりはじめたような気がします。


「神奈川工科大学KAIT工房」(2008)は、
恐らくは建築家ならば殆どの人が思いつくような着想ではあります。
ゆるやかな領域をどのように獲得するか、
領域相互の関係性をどう決定付けるのか、そのあたりがひとつの焦点でしょうか。
しかし、未だ誰も実作としては未達の空間・領域で、そこに到達する為に、
氏は専用のCAD開発を依頼したり、
柱や領域の相互関係性について執拗に追求しています。
結果として、空間定義のような恣意性を排除しつつも、
極めて強い知性を感じるものになっているように思いました。


続きます。

 

2008年7月19日

INAXの建築家フォーラム 石上純也講演会 1

INAXの建築家フォーラム第73回、石上純也さんの講演会に行ってきました。
若手建築家の中で注目度の高い人ではないでしょうか。
妹島和世建築設計事務所出身ということもあってか、
作風はその進化系のように感じられます。

 

私が始めて石上さんの作品を見たのは、
「レストランのためのテーブル」(2003)でした。
たわみ、構造解析、軽さといった現代建築的な概念を、
家具であるテーブルに率直に適応させたものです。
初見時にはその鋭い着想と実作の精巧さに、鳥肌が立ったのを覚えています。


講演会は恐らく全てのプロジェクト/実作を網羅するもので、
石上さんの思考過程が鮮明に浮き出るものでした。

氏は、一つのキーとなる事象や現象に対して徹底して突き詰めて考え、
具現化する為の方策を手段を選ばずに行う事で、
結果としてクオリティの高い実作へと結び付けているようです。
その一連の過程は、極めてディープな方向性に延びていると感じました。

作品を通して言える事は、家具や樹木、都市や風景のような建築を取り巻く要素を、
的確に建築言語に取り込んで処理している点です。
あまりにもそれを徹底して行うが故に、
その思考/設計プロセスから実作、プレゼンテーションまで一貫した思想が貫き、
人の心を打つのでしょう。

 

続きます。

2008年7月16日

2008年日本建築学会賞「作品」受賞者記念講演会

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2008年日本建築学会賞「作品」受賞者記念講演会に行ってきました。
対象は岩崎堅一氏による「武蔵工業大学新建築学科棟#4」と、手塚貴晴氏+手塚由比氏による「ふじようちえん」の2作品。

選考委員の深尾精一氏も触れていましたが、この2作品には多くの共通点があります。
受賞者の岩崎氏と手塚貴晴氏は武蔵工業大学にて教鞭を執られており、さらに2作品とも学びの場であるということ。また建築プランにおいても、2作品共に歴史をさり気なく継承しているという基本理念について秀でたものであったと評価されていました。

スライドを用いた2組の講演でもおもしろい共通点が見られました。
それは建築のメインとなる空間においてはそれぞれ明確な使用方法を設定していないという点です。結果として設計者の想像もしなかった方法で、学生がギャラリーや製図室にて創作活動を行い、園児が屋根の上で新しい遊びを発明している。
学びの"始まり"である幼稚園と"終わり"である大学の両施設において、自由な発想のもとで建築を使いこなすことによって空間が成り立っている様子はとても興味深いものでした。
手塚氏はそのような建築と人との関係について「建築が生きている」という表現をされていました。

建築が発想や主体的な活動を促す力を自然と持たせ、人を育てるのに益するのだということを受賞2作品が示しているものと思います。勉強になる講演会でした。

2008年7月 4日

第57回アイカ現代建築セミナー セシル・バルモンド+伊東豊雄

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 第57回アイカ現代建築セミナーに行ってきました。
講師はセシル・バルモンド氏と伊東豊雄氏。
2人は2002年にサーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオン2002にて協働。その後も複数のプロジェクトでコラボレーションしており、今もなお先進的な建築を発表し続けています。

セミナーのテーマは、New Organisation。
アルゴリズムを踏まえた建築形態の形成過程について、両氏が近年におけるプロジェクトをもとに解説した後、金田充弘氏(東京芸術大学准教授)が聞き手となり対談という構成。※時間の関係で質疑は省かれました。

特に心惹かれたのは、セシル氏の解説による幾何学を基にしたアルゴリズムによる造形について。ある図形に対し縮小、回転、プロット等の動作を流動的に作用させることで特異な形態を生み出し、自身のプロジェクトにおける建築のフォルムや構造基盤を決定させているという内容は興味深いものでした。
この手法は、コンピュータの普及以前にはなかったデザイン基軸として今後ますます注目され発展していくものと思われます。ただこの方法を用いた場合、人間の細かな行動様式を捉えたデザインが弱くなるというデメリットがあるため、ビル等の大規模建築における外形やテンポラリーな施設のみへの適用に限られてしまいそうです。

疑問点は、デザインアルゴリズムの核となるメソッドのループを何に基づいてブレイクさせているのかということ。セシル氏は、アルゴリズムを利用することでこのような美しい形が生まれると表現していましたが、その形態で良しとする最終判断は結局、人間の感性に委ねられてしまうのかが気になるところです。考えられそうなのは、
1.複数のアルゴリズム実行結果を並べ、見た目が美しいと感じたものを選ぶ
2.複数のアルゴリズム実行結果を並べ、構造的に優れているものを選ぶ
3.「このアルゴリズムにおいては何回のループが最適である」という解を導き出しており、それがプログラムに組み込まれている

プログラムのつくりとしては3が美しいと思うのですが、1+2でしょうか。

2008年5月20日

隈研吾の京都造形大学至誠館

隈研吾建築都市設計事務所が設計した京都造形大学至誠館が竣工しています。
隈さん得意の建築言語であるルーバーが外壁面に使われていますが、
今回はかなり大振りな石材で重厚感を持たせつつ、
繊細にも見えるような不思議な風合いに仕上がっています。

一般に、縦方向のルーバーの役割は西日避けとして
言説されることが多いと思いますが、
近年では窓の無い部分の表層材として用いられる事も多くなっています。
これは鉛直方向性の強調、リズムやスケール感の表出などに貢献するものです。


表層材として見せるルーバーは縦方向が基本になります。
簡潔に理由を述べれば、雨や重力と方向性を持った部材との関係性です。
重力と直行する横方向にルーバーを走らせると汚れやすく、
経年時の見栄えがあまり良く無いと言えます。

果敢にも表層材として横ルーバーを用いられている事例も散見されますが、
これは、という使われ方はまだ見た事が無いように思います。


作品に戻ると、造形大学という背景から、
まずは塑性やダイナミズムに着想したと考えられます。
そこにもう一点、恣意的に映らない造作にしたところに時代性を感じます。
一通りの解釈しかないような押し付けがましい建築にならなかった所が、
この建築の最大の焦点ではないかと思います。

2008年5月 9日

西沢立衛の十和田市現代美術館

西沢立衛建築設計事務所が設計した十和田市現代美術館が竣工しています。
この美術館は、西沢立衛、アトリエ・ワン、乾久美子、ヨコミゾマコト、藤本壮介の
指名コンペの末に計画、施工されたものです。

結果としては、コンペ案をかなり尊重した建築になっています。
建築は大小無数のホワイトボックスで構成され、
それぞれをガラス張りの渡り廊下が繋ぐことで、
屋内外にさまざまな独立した展示スペースが生じさせる設計です。

 

ボックスを離散的に配置する計画案の場合、
その外部となる空間の扱いが意味合いの隙間になる可能性があります。
しかし、この建築ではアートが上手くそこに入り込んで、
内外を一体的なものとして扱うことに成功しているように思えます。

建築外部の扱いは、いよいよ重要性の高いものになりましたが、
ここでは、美術館という特性を生かして、
アーティストとのコラボレートに成功しているようです。

また、街にアートを"開く"ということについても、
言葉だけではなく実際にその大きな開口部を取る事で明確に意思を表しています。

かつての建築界では思想や言説と実作とが伴っていないように思えることもあり、
ただ自己肯定の為のこじつけのような建築も見受けられますが、
近年の建築界の風潮では言説や建前よりも即物的な良さが評価されやい土壌となり、
結果的に万人にとって良いデザインが表出しやすくなったと考えます。

2008年4月30日

三渓園へ

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 休日に横浜の本牧にある三渓園に行ってきました。
池を中心とした優美な庭園と、17棟の繊細な建築群による構成になっていて、
建物の多くは移築されたものです。

つまり、様々な場所に建てられたものの内、
優れていると認めたものを集積してひとつのまとまりを形成したわけです。
それは、自然や建築のコラージュとも言えるでしょうか。


建築はある程度風土や場所性に依存しますから、
その関係性を絶つ事になる移築や曳家は危険を伴いますが、
三渓園にある建築は、一つ一つがそこに有る事に違和感を感じさせません。
大きなスケールにおける編集行為の稀有な成功例でしょう。

大げさに意図を見せ付けるような計画ではなく、
多様な要素が心地良い密度で離散し、当たり前のように佇む建築とランドスケープ。
それは、これからの住環境や都市計画が目指すべき方向性の一つだと考えますが、
具現化された風景を見るのは初めての体験だったかもしれません。